浦和家庭裁判所熊谷支部 昭和40年(家)800号 審判 1965年4月07日
申立人 中村清(仮氏)
主文
本件申立を却下する。
理由
一、本件申立の要旨は「申立人は印章業を営んでいるものであつて昭和一五年ごろから通称名「孝濤」で通つている。ところが戸籍名と通称名との不一致のため社会生活上不便なのでこれが改名許可を求める」というのである。そして申立人が右名称を昭和二五年五月三一日以降使用している事実は当裁判所に申立人から提出された各証拠書類によつてこれを認めることが出来る。
一、そこで申立人の申立の当否を検討するに戸籍法は正当の理由があるときは改名を許容しており従来の裁判例も通名の使用が長期にわたり通名がその人の社会生活上その同一認識の標準となつているときは、戸籍上の名を通名に変更するについて正当な事由があるとしている。しかしこの場合においても如何なる文字を通名として使用していてもこれが変更を許容し得るかというとそれには自ら限度が存するものといわなければならない。
即ち右は戸籍法の趣旨に鑑み通名に特にむずかしい文字が用いられ、通常人には読み難い場合(通名自体が再び特にむずかしい文字という理由でその変更の許可を得られる程度のもの)は許可すべきではないと解することが正当であるところ本件申立人の通名「孝濤」の濤は当用漢字表人名漢字別表になく且つ「孝濤」名はそれ自体通常人にとつて読み易い名とはいえずむしろ特にむずかしい文字というべきものであるから結局本件申立は戸籍法所定の正当な事由に該当しないのでこれを却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 平山三喜夫)